腕時計の防水性能とは、腕時計に水圧がかかった際に、時計内部への水の浸入をどの程度防ぐことができるのかという性能を指します。
この防水性能は、国内の規格であれば「JIS(日本工業規格)」、国際的な規格であれば「ISO(国際標準化機構)」によって定められていて、腕時計メーカーが自分たちで勝手に「○○防水です」と言っているわけではありません。ですから「10気圧防水」と記載があれば、どのメーカーの腕時計でも同じ防水性能となります。
ただし、この防水性能は腕時計を使っていくうちに低下するのが通常です。防水のために使用されるパッキンゴムが劣化することが最大の原因ですが、例えばアンティークで購入した腕時計を、いくらその腕時計の発売当時の防水性能が「20気圧防水」だからといって、プールで泳ぐときに身につけたりすれば、余程メンテナンスが素晴らしくて防水性能が保たれていない限り、恐らくは水が入って終了します。その点は注意が必要でしょう。
JIS規格における防水性能
JIS規格では、下記の大きく4つの防水区分で腕時計の防水性能を定めています。
- 第1種防水時計
- 第2種防水時計
- 第1種潜水時計
- 第2種潜水時計
上から下に行くにつれて順に防水性能が高いレベルになりますので、「第1種防水時計」が最も低く、「第2種潜水時計」が最も高い防水性能区分となります。防水性能が「第1種防水時計」に満たない腕時計は「非防水」となります。
「防水時計」というのは一般的な腕時計の防水性能になります。「潜水時計」はその名の通り、空気ボンベを使用したスキューバダイビングや、大深度での潜水作業に従事するような方が使用するレベルになります。
第1種防水時計
所謂「日常生活用防水」と呼ばれる区分です。JIS規格上の要求は「2気圧以上の水圧に耐える防水時計」となりますが、各メーカーが言う「日常生活用防水」は基本的に「3気圧防水」です。
「3気圧防水」というのは「静止した状態で水深30m相当の水圧まで防水が可能」という意味になります。「水深30mまで」と書くと、「それならプールに入ったりしても大丈夫じゃない?」 と思われるかもしれませんが、あくまで「そ~っと動かさない状態で」という条件ですので、水の中で手を動かしたりすれば瞬間的にそれより大きな水圧がかかり、水が入ります。
このレベルの防水性能は、あくまで「洗顔中に水がかかった」「スポーツをして汗をかいた」「雨に濡れた」程度の水分から時計を守る程度ものと考えましょう。
この規格をクリアした腕時計は、その裏蓋やスペック表などに「Water Resistant」という表記が可能になります。
第2種防水時計
所謂「日常生活用強化防水」と呼ばれる区分です。JIS規格上の要求は「4気圧以上の水圧に耐える防水時計」となります。概ね下記の3つの防水等級がよく用いられます。
- 5気圧防水
- 10気圧防水
- 20気圧防水
5気圧防水
上で書いた「日常生活用防水」より少し強化された防水性能です。水仕事が多い方でも気を遣わずに使える、あるいはプールに入ったり、深く潜ったりしないレベルのマリンスポーツで使用できる程度の防水性能と考えればよいと思います。
この規格をクリアした腕時計は、その裏蓋やスペック表などに「Water Resistant 5bar」という表記が可能になります。
10気圧防水
競泳のような激しい水泳、あるいは空気ボンベを使わない素潜り(スキンダイビング)時に使用しても大丈夫なレベルというと、この防水性能からになります。10気圧防水以上の腕時計であれば、普通に生活している上で遭遇する腕時計の水没に関しては、ほぼ気にすることなく使えると思います。
ただし、素潜りで使うといった場合は、防水性能が購入時の状態で保たれているか事前によく確認する必要があります。
この規格をクリアした腕時計は、その裏蓋やスペック表などに「Water Resistant 10bar」という表記が可能になります。
20気圧防水
ここまでくると普通の人が持つには十分すぎる防水性能ですので、余程のことがない限り水の浸入を気にする必要はありません。経年によるパッキンゴムの劣化だけ気をつけましょう。
この規格をクリアした腕時計は、その裏蓋やスペック表などに「Water Resistant 20bar」という表記が可能になります。
これ以上の防水性能が必要な方は、恐らくスキューバダイビングを趣味にしているような方に限られます。そのような方は下記の「第1種潜水時計」以上を選択するとよいと思います。
第1種潜水時計
「空気(スキューバ)潜水用防水」と呼ばれます。「ダイバーズウォッチ」と言った場合はこの「第1種潜水時計」以上を指し、「○m防水」と表記できるのもこの防水性能以上をクリアした腕時計のみになります。
また、防水機能とは別ですが、ダイバーズウォッチには「耐磁性能」「耐衝撃性能」「潜水時間を管理する機能」「光の届きにくい深海作業での視認性確保」など、いくつか満たすべき要求事項も規格によって定められています。
この区分は3つの水深等級に分かれます。
- 100m防水
- 150m防水
- 200m防水
上で解説した「防水時計」でいう「○気圧防水」というのは「その水深に相当する圧力をかけても大丈夫ですよ」という意味になります。あくまでその気圧がかかった状態で「腕時計を静止させていること」が条件ですから、「10気圧防水」といっても「水深100mで腕時計をつけたまま活動できる」という意味にはなりません。
それに対して「潜水時計」の「○m防水」は「実際にその水深で腕時計をつけたまま活動しても大丈夫ですよ」という意味になります。具体的には「表記した水深×125%(1.25倍)」、つまり「100m防水」であれば「水深125m相当の水圧」に耐えられる性能が求められます。このことからもプロ仕様だということがわかります。
この規格をクリアした腕時計は、本体の見やすい場所に「1種潜水時計 ***m」「Diver's Watch ***m for Air Diving」「Air Diver's ***m」といった表記(「***」部分は「100」「150」「200」のいずれか)をしなければならないと定められています。
第2種潜水時計
「飽和潜水用防水」と呼ばれます。この区分は200m以上、100m刻みの水深等級に分かれますが、よく用いられるものとしては下記の4種類が挙げられます。
- 1000m防水
- 600m防水
- 300m防水
- 200m防水
「飽和潜水」というのは、大深度まで潜水した人が急速な気圧の低下を受けた時に発生する「減圧症(「潜函症」などとも言われます)」を防ぐため、あらかじめ体内にヘリウムなどの不活性ガスを飽和状態になるまで吸収させることで、100メートル以上の深度でも安全に潜水、長時間の活動ができるようにする技術です。
飽和潜水を行う人は、ヘリウム・酸素混合ガスを満たした加圧室で飽和状態になるまで数日間過ごし、身体をヘリウムガスで飽和させてから潜水します。
潜水作業終了後、今度は逆に徐々に減圧しながら大気圧での状態に身体を戻しますが、最初の加圧時に腕時計内部に入り込んだヘリウムガス(分子が小さいヘリウムは防水された腕時計内部にも侵入します)が腕時計内部から排出されないまま減圧されると、内部に残ったヘリウムガスの圧力で腕時計が破損します。
これを防ぐため、飽和潜水用防水の腕時計には、内部に入り込んだヘリウムガスを排出する「ヘリウムガスエスケープバルブ(あるいは「減圧バルブ」)」が装備されます。
この規格をクリアした腕時計は、本体の見やすい場所に「2種潜水時計 ***m」「Diver's Watch ***m for Mixed-gas Diving」「He-gas Diver's ***m」といった表記(「***」部分は「200」以上「100」刻み)をしなければならないと定められています。
非防水
ドレスウォッチなどに多い「非防水」はその名の通り防水性能がない(「日常生活用防水」の要求をクリアしていない)ということですので、水濡れ厳禁です。
とはいっても日常生活でかく軽い汗の浸入くらいは防げるパッキンゴムなどは入っていますから、ちょっとでも水がついたらアウトというわけではありませんが、水回りでの取り扱いには注意しましょう。
ISO(国際標準化機構策定の国際規格)における防水性能
ISOもJISと各防水仕様に求める要求事項は同じです。ただし、JISのような4つの区分ではなく、「防水時計」「潜水時計」という2つの区分のみに分類されています。
実際の規格
上記解説に使用した各規格は下記のリンク先から参照できます。ただし、JIS規格もISO規格も全文を閲覧するには購入が必要です。
- JIS規格
- ISO規格
「10気圧防水」と「100m防水」の違いは?
ここまでの説明でおわかりいただけたかもしれませんが、
- 「10気圧防水」は「静止した状態で水深100m相当の水圧に対して防水性能があります」という意味で、「100mの水深まで潜れます」という意味ではない。
- 「100m防水」と書かれていればプロ仕様のダイバーズウォッチで、「実際に100mの水深まで潜れます」と言う意味でとらえて問題ない。
という違いがあります。
「腕時計をつけたままプールや海に入ったりしたいけれど、スキューバダイビングはやらないな・・・・・・」という方なら、「10気圧防水」以上の腕時計を選択すれば間違いないと思います。
一方で「スキューバダイビングが趣味なので、その時に使う腕時計が欲しい」ということでしたら、「100m防水」などと書かれたダイバーズウォッチを最低限選択しないといけません。
JIS規格における防水性能早見表
下記にこの記事で解説した、JIS規格における防水性能などについてまとめた表を掲載します。
JIS | - | 第2種潜水時計 | 第1種潜水時計 | 第2種防水時計 | 第1種防水時計 | - | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
名称 | - | 飽和潜水用防水 | 空気潜水用防水 | 日常生活強化防水 | 日常生活防水 | 非防水 | ||
防水等級 | - | 200m以上 100m刻み |
|
20気圧防水 | 10気圧防水 | 5気圧防水 | 3気圧防水 | - |
表記例 | - | Diver's Watch ***m for Mixed-gas Diving | Diver's Watch ***m for Air Diving | Water Resistant 20bar | Water Resistant 10bar | Water Resistant 5bar | Water Resistant | - |
用途例 | 洗顔や小雨でぬれるなど | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × |
水仕事や軽い水泳など | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | |
競泳や素潜りなど | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | |
スキューバダイビングなど | ○ | ○ | × | × | × | × | × | |
飽和潜水 | ○ | × | × | × | × | × | × |
日本国内の規格であるJIS規格を中心に防水性能について解説しましたが、このJIS規格については、ISO規格の内容を踏まえて定められていますので、海外ブランドの輸入腕時計でも防水性能については基本的に同じと考えて問題ありません。
防水性能については特にスポーツウォッチを選ぶ際に気にする方も多いかと思いますので、上記を参考にスペック表などを見てみるとよいのではないでしょうか。
※ JIS規格における防水性能早見表の参考文献: 防水について : セイコーウオッチ株式会社