セイコーは2016 Baselworld(バーゼルワールド)にて、同社の機械式時計ブランド「セイコー プレザージュ」のプレステージラインとして、2モデルの限定仕様を発表しました。「琺瑯(ほうろう)ダイヤル」仕様の「SARK001」と「漆ダイヤル」仕様の「SARK003」という2モデルですが、このうち、琺瑯ダイアル仕様の「SARK001」を予約注文しておいたのが届いたのでレビューしたいと思います。
結論から言えば、この価格帯で手に入るモデルとしてはかなり出来がよく、セイコー プレサージュがグローバルブランドとして新たな出発を迎えることを記念する、その門出を飾るにふさわしい限定モデルだと思います。
特に琺瑯ダイアルのクオリティは素晴らしいです。42mmという比較的大きめのサイズながら、クロノグラフということもあって文字盤のレイアウトも間延びした感じもなくてバランスが良く、その琺瑯特有の深みのあるホワイトと相まって、非常に良い雰囲気に仕上がっています。
クラシカルなデザインのクロノグラフ、エントリー価格帯で手に入る高品質な機械式腕時計を探しているという方にはとてもお勧めできるモデルになっています。実は私、普段使いの腕時計コレクションとしては白文字盤(ホワイトダイアル)の時計を1本も持っていなかったので、1本欲しいなとは思っていたのですが、この琺瑯ダイアルは当たりだったと思います。
外装は桐の箱
今回の限定モデルは、桐でできたケースに収められています。その桐箱の外装(要するに外箱ですね)が安っぽい紙のケースで台無し感はハンパないんですが、その辺はこのモデルの価格帯を考えれば仕方ないんですかね。もうちょっとパッケージにも凝ってもらえると、こう、なんて言うか開けるときの楽しみが増すんですけども。
桐箱を開けると、時計とご対面です。
箱の内側にはセイコーが国産初の自動巻腕時計「オートマチック」を発売してから60周年であることを示す刻印がされています。
独特のツヤ感と深みのあるホワイトが美しい琺瑯ダイアル
琺瑯ダイアルのホワイトがいい感じなんですけども、ちょっと私の写真の腕(&機材)ではうまく撮れていないですねぇ。
文字盤には、「Seiko Automatic」の文字が。初代ローレルのデザインを踏襲したクラシカルなアラビア数字のインデックスは、「12」のみ赤でプリントされています。
琺瑯ダイアルのタグが。
細部のディテールをチェック
時計を桐箱から取り出し、少し文字盤をアップで撮影してみます。琺瑯ダイアルの白色に映える青色の針は、所謂、青焼き(ブルースティール)針ではなく、青焼き風の塗装ですが、これはこの価格帯のモデルでは普通かと思います。実はこの青の塗装、普段はかなり濃く、深みのある紺色に見えるのですが、光の加減でとてもきれいな青に見えて、これはこれで結構いいかなと思います。長さも十分でバランスがよいです。
ちなみに、積算計やスモールセコンドなど、サブダイアルの針はブラックで塗装されています。また、サブダイアルの部分、よく見ると少し段差が付いていて、立体的な仕上げになっているんですよね。そのおかげで、白文字盤にありがちなのっぺりとした印象が和らいでいます。
裏蓋はシースルーバック仕様で、限定モデルのみに搭載される、金メッキのローター(回転錘)仕様のクロノグラフキャリバー「8R48」を見ることができます。
ちょっと厳しいことを言えば、個人的にはこの価格帯のモデルに搭載されるムーブメントなんか、わざわざ裏スケで見てどうすんだと思いますけども、まぁ折角の金色ローター仕様ですしいいのかなと。裏蓋にはシリアル番号(**/1000)や、限定モデルを示す「Limited Edition」の文字が刻印されています。
ちなみに、シースルーバック仕様なんですが、JIS耐磁時計1種の耐磁性(4800A/m / 磁気に5cmまで近づけてもほとんどの場合で性能を維持できる耐磁レベル)を持っていますので、パソコンやスマートフォンなど、磁気を発生する機器に触れる機会が多い現代社会においても、ほとんどの場合で時計の磁気帯びによる性能低下を気にせず使用できると思います。
防水性は10気圧防水(日常生活用強化防水)ですので、こちらも通常の日常利用で神経質になる必要はない十分な防水性能を持ちます。クロノグラフとはいえ、デザイン的には比較的フォーマルですから、これでプールや海にガンガン入る人はいないと思いますし。
ケースの仕上げは、ポリッシュとヘアライン仕上げ(ラグの一部など)を組み合わせた比較的きちんとした仕上げがされていて、価格帯を考えると非常に良い作りだと思います。
竜頭には通称「蛇S(ヘビエス)」があしらわれています。1段引き出しでデイト調整、2段引き出しで時刻合わせというのは標準的な作り。ハック機能付きですので、2段引き出しで秒針(スモールセコンド)がストップします。また、通常位置でゼンマイの巻き上げを行うことができる、手巻き機能付きです。
ストラップはブラウンのクロコダイルストラップで、質感もなかなかのもの。個人的にポイントが高いのはDバックル(ディプロイメントバックル)仕様ということ。このDバックルはサイドにプッシュボタンの付いた三折れ式のDバックルで、全体がヘアライン仕上げになっています。
私、レザーやラバーストラップの腕時計については尾錠がDバックルじゃないとあまり時計を使いたくないと思ってしまうほど、Dバックルが好きでして。所有しているコレクションも、基本的に最初からDバックル仕様のモデルを購入するか、そうでないものについては、あとで純正Dバックルを取り寄せてもらったりするなどして、可能なものは交換して使用しています。一度Dバックルに慣れるとちょっと普通の尾錠は面倒になってしまいます。
少し気になるケースの厚み
クロノグラフということもあってケース厚は結構あるのですが、それに伴ってちょっと重心が高いのかな、少し腕に吸い付くような装着感とは言えないつけ心地。ただ、これも気になるかどうかは人それぞれだと思います。購入をお考えで、この辺を気にする方は、購入前に実際に試着してみるとよいのではないでしょうかね。
厚みがあるので、スーツなどで着用する場合、シャツの袖に時計が引っかかるのは避けられないと思いますが、まぁ最近の腕時計はかなり大きく、厚くなっている傾向があるので、このモデルだけの問題ではないですね。これが嫌ならスーツの時はスリムケースの時計を選べばよいだけですし。
総括
さて、結論は最初に書いてしまったので総括と言っても繰り返しになってしまいますが、アンダー30万円で、出来の良いクロノグラフ、デザイン的にもそつなくまとまった機械式腕時計の選択肢としては、限定モデルながらかなりお勧めの1本だと思います。
出来だけをみれば、スイスの腕時計ブランドの、同価格帯のモデルに比べてもかなりコストパフォーマンス高いと感じさせます(スイスブランドなら10万円~20万円価格帯が上でもおかしくないかと)。セイコーは日本が世界に誇るマニュファクチュールの1つですし、設計や工作精度も世界的にみてトップクラスだと思いますが、いまいちブランド価値が世界的には高くないのが残念です。
とはいえ、ハイエンドモデルとしては、最近「グランドセイコー スプリングドライブ 8デイズ」のような本気のハイエンドモデル(プラチナ950の鍛造ケースが作れるのは世界的に見てもセイコーの他にはロレックスやパテック・フィリップくらいのものですからね)を発表するなどセイコーの機械式腕時計市場への本気具合がうかがえる動きが活発ですし、今回の限定モデルのように、30万円~50万円くらいのミドルレンジの価格帯、グランドセイコーと、低価格帯のエントリーモデルをつなぐようなラインナップを充実させてくれれば、本格的な機械式腕時計に初めて触れる人たちの入門モデルとして素晴らしい選択肢になるのではないかと思います。
SARK001 データ
- 国内販売価格: 250,000円(税別)
- 限定数: 1,000本
- 発売開始: 2016年9月9日
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