著名な腕時計メディア「Hodinkee」の創業者で編集長でもある Benjamin Clymer(ベンジャミン・クリンパー)氏が語る、ロレックス(Rolex)の 偽物を簡単に見分ける3つの方法という動画が去年末に少し話題になっていました。
詳しい内容は下記に実際の動画を掲載しておきますので見ていただくとして(英語ですが)、簡単にまとめると、「偽物のロレックスを簡単に見分けるには3つのポイントを見ればよい」という内容になっています。
動画内で語られている「偽物を見抜く3つのポイント」というのは下記の通り。
- The Second Hand - 秒針の動きに注目する
- The Date Window - カレンダー表示窓(サイクロップレンズ)に注目する
- The Stamp - 刻印に注目する(金無垢モデルの場合、金製品であることを示す打刻印がケースやブレスレットなど数ヶ所数カ所にあります)
ところが、これらポイントで見分けが付くのは、「ロレックス」と言いながら、1万円とかで売られるレベルの、本当に騙す気ありますか? 品質の偽物だけではないかと。
まぁ、ベンジャミン・クリンパー氏もそんなことはわかった上で、素人でもわかるようにポイントを絞って話しているというのはわかっていますが、あえて突っ込んでみます。
まず、1つめのポイントとなる「秒針の動きに注目する」の部分で語られている、「秒針の動きに注目すると、本物はスムーズに動く(要するに機械式ムーブメント特有のスイープ運針)けれど偽物は1秒ごとに動くよ」という点ですが、それは中身がクオーツムーブメントの雑なコピー品(昔はそういう雑な偽物が多かった)ならそれで見分けられますが、さすがに今どきそんなわかりやすい偽物があるのかと。実際に偽物の多くは、中国製やロシア製の安い機械式ムーブメントが入っている一応機械式の場合が多いです。
また、2つめのカレンダー表示窓(本物のサイクロップレンズは2.5倍程度までデイト表示を拡大しますが、粗悪な偽物は拡大されなかったり、デイト表示がずれていたりするケースが多い)にしても、3つめの刻印についても、粗悪なコピー品を除き、近年のスーパーコピーといわれるような精巧なコピー品は、かなりの精度でこの辺も模倣してくるため要注意です。
ちなみに金無垢モデルは重さで比較的簡単にわかってしまうため作りにくいのかなと思っていたのですが、聞いた話ですと、本当に金を使ってケースやブレスレットを作成し(もちろん本物から型を取った偽物)、中身の機械だけ適当なものを入れて金無垢モデルとしてあまり腕時計に詳しくない質屋などに持ち込んだり、オークションサイトで販売されたりするケースもあるみたいです。
裏蓋を開けなければ質屋さんのような所謂プロでも欺されるようで、本物の金を使っても騙し取れる金額からすればおいしいのかもしれませんね。それくらい精巧な偽物は沢山存在するということですから注意しないといけません。
もちろん、本当にロレックスを見慣れている人であれば各部の細かい作り込みや差異から見た目だけで判断できるとは思いますが、それ程ロレックスを知らない普通の人が、見た目だけで簡単に真贋を見分けられる程、簡単なことではありませんのであまり動画を鵜呑みにしませんように。
動画では語られていませんが、特にバックルのロレックス王冠マークは真贋判定時にわかりやすいポイントと言われます。比較的大きく王冠が彫られるため、粗があると目立ちやすいというのがその理由。
また、風防に入った王冠透かしも偽物が作りにくい部分ですので現行モデル(2004年以降のモデルはほぼ入っているはず)であれば確認ポイントです。とはいっても風防を本物から取られて使われると終わりですけども。
ゼロから作られるものだけが「偽物」ではない
「偽物」というと、ゼロからパーツを起こして、1つも本物パーツが使われていない、偽物の腕時計を作っていると想像しがちですが、ひと言で「偽物」といっても、実は下記のようにいくつかのパターンがあります。
- 完全な偽物、つまり外装からムーブメントまですべて本物を模倣して作られたパーツ、もしくは汎用ムーブメントなどの代替品で構成されるもの
- 外装の一部、もしくは全部は本物だが、中身の機械は全くの偽物というもの
- 本物がベースだが、リダンダイアルや社外パーツなどで、より高値で売れる希少モデル、限定モデルなどに偽装しているもの
わかりやすい例で言えば、手巻きデイトナは、ポールニューマンダイアル(エキゾチックダイヤル)というだけでとんでもない価格になったりしますが、精巧に偽造したダイアルだけを交換(精巧な偽ダイアルを作る場合や、元のダイアルをリダンしてみたりと方法は様々)して希少モデルとして売ってみたり、後からダイヤモンド(もちろん粗悪品や偽物)をダイアルにはめ込んでダイヤモンドセットモデルを偽装してみたり(上記3番目の例)。
あるいはジャンク腕時計(一応本物)から外装パーツだけ使えそうなものを集めて、機械には適当な粗悪品を入れて本物と偽ったり(上記2番目の例 / これは裏蓋を開ければすぐに見分けられますが、外からでは余程詳しい人以外はわからない)と色々なパターンがあります。
また、本体のシリアルナンバーを削ったり偽装したり、保証書の方を偽造してより真贋をわかりにくくしたりと、詐欺師もあの手この手で本物らしく偽装してきますから大変。
また、現行モデルについてはロレックスの精巧な偽物を作る技術的ハードルが高すぎて減っているようですが、一方で高値が付くアンティークモデルの偽物が増えているようですので注意が必要。
詐欺師としては、かかった元手に対して、儲けが出る価格で売りさばければよいわけですので、ゼロから偽物を作る場合もあれば、ダイアルを代えただけで簡単に高いお金を騙し取れるのであればそちらを選択したりと、様々な手を使って欺しにきます。
また、残念ながら実際にそういうものが市場には数多く出回っていて、信頼ある専門店はともなく、得体の知れない格安ショップやオークションサイトなどで下手に購入するとこういうものを掴まされる可能性も高くなります。
悪意をもってこういう製品を売っている人たちもいますし、中には売っている側も騙されていて、偽物だと思わず、本物だと信じて売っている場合もあるので非常に厄介です。
偽物を掴まされないためには信頼のおけるところから購入するしかない
やはり自分の身(お金)を守るには、新品の現行モデルであれば最初からブランドの直営店や正規代理店で購入するか、並行輸入品や中古品を購入するにしてもきちんと名の売れた有名腕時計専門店で購入することが重要かと思います。
正規代理店であればその入荷ルートからして偽物が入り込む余地は一切ないのは当然として、並行輸入品や中古品だとしても、実績のある有名店であれば仕入れルートも確かですし、真贋のチェックもかなりの精度で行われ、偽物が入り込む余地はほぼありません。そこはお店の看板がかかっている部分ですので、信頼に足りると考えてよいと思います。
よくわからないインターネットの安売りショップや海外のよくわからない店舗などで安いからといって手を出すとあまり良い結果にはならないことが多いですし、大切なお金を無駄にしないためにも、間違ってもそういう怪しい商品には手を出さないように注意しましょう。
偽物には手を出さないことが腕時計愛好者の責任
また、話のネタやジョークのつもりでなど、軽い気持ちでこういう偽物に手を出す人もいるかもしれませんが、本人はジョークのつもりでも、偽物を購入するような行為は、偽物で利益を得ている輩に資金を与え、市場により多くの偽物が出回ることに荷担する行為になりますので、本当の腕時計愛好家であれば、絶対に偽物を購入してはいけません。
なお、知っていた、知らなかったに関係なく、偽物を個人の使用のために購入すること自体は法的に問題ない(偽物と知って海外から輸入した場合は別)ですが、偽物を他人に売った場合は犯罪になります。
本物と偽って売れば当たり前ですが詐欺罪等に問われますし、偽物ですよと明かして売ったとしても商標権侵害です。本当に本人も欺されていて偽物だとは知らずに売った場合は故意ではないため罪には問われないですが、逆に言えば故意だと認定されれば罪に問われます。
偽物に手を出すということを軽い気持ちで考えないようにしましょう。